32.リビルディング・ロード⑦
さて異彩さはどうして生まれたのだろうか。そのルーツを探ってみる。88年以降、同住宅の建替えプランは紆余曲折するが、一括建替えの方針が次第に定着してくる。また、建替えを担うべきディベロッパーも変遷するがバブル経済と呼ばれた好景気は次第に遠退き、いわゆる不景気の中にあって、等価交換率が画期的な事例など錚々見当るものでもなかった。
このような状況下、画期的ともいえる、これまでにないフォーメーションが出来上がる。具体的な事業協力者としてのディベロッパー、コーディネーター、設計者等決定が間近に迫る2006年9月、事業協力者等選定事務局の依頼がある団体に舞い込んだ。この依頼を受けたのが、特定非営利法人(NPO)多摩ニュータウン・まちづくり専門家会議(戸辺文博理事長・略称「たま・まちせん」)である。ここには多摩NT在住の学者、建築家、管理士等様々な専門家が中心に参加する地域に根ざしたプロフェッショナルな集団で筆者も少し関わりを持つ。
まちせんは早速、事業協力者選定委員会を立ち上げ、その事務局を担った。まずは3本の矢のうちの施策第一弾、1本目の矢だが、まちせんのプロフェッショナルたちは、事業協力者選定委員会の立ち上げに伴って、そのルール作り、事業者選定プロセスの作成、同委員会のメンバー(有識者)の選任等を進め、07年5月までに、ディベロッパーを業界の老舗でもある東京建物に、コーディネーターとしてシティコンサルタンツ、設計者を松田平田設計にといった、各業界のパイオニア的存在をあて、建替え委員会に答申。これを受けて、委員会側による今後の方針・軌道が明確化した。しかも区分所有者+コーディネーター(権利者の利益の実現)グループとディベ+設計(技術支援・企業活動)グループを分別し、事務局が両者の利益調整を担う体制を整えた。
その後間髪を入れず2本目の矢が放たれる。当該建替え事業が、多摩NTエリアの再生にふさわしい団地景観、コミュニティの実現を確保するため、自治体を加えた、『まちづくりデザイン会議』を立ち上げたのである。まちせんが引き続き事務局を担った。この会議のメンバーとしては、東京大学の大月研究室、シティコンサルタンツ、東京建物、松田平田設計他、まちせんも随時参加する。
約1年間で建替え区域と周辺地域との関連性を意識しつつ、動線・空間・共用施設づくり等につき検討を重ね、学識経験者、各委員から寄せられる意見を参考に、住棟配置、共用施設、屋外計画に反映していったのだ。
さて最後の3本目の矢だが、12年から15年にかけ建替え前後の意向変化に関する調査を実施した。従前の組合員、新規権利者を対象に、旧住宅居住、仮住まい期間、新住宅への入居をテーマにアンケート調査を行う。従後の区分所有者には、購入動機、住み心地、共用施設の利用状況等綿密な調査が進められた。
これまでには見られない取組みの登場は、3本の矢ということになるが、ホッとするような開放感はどうも1本目と2本目の矢が効いているらしい。3本目の矢は、実に思いかけない事業の展開ぶりを披露する(つづく)。
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志
集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年12月号掲載