39.リビルディング・ロード⑫
団地型マンションの建替えは、低・中層の住宅が高層あるいは超高層を含んだ住宅群に生まれ変わる傾向が強い。等価交換方式を採用するところが大半であるためにこの傾向は顕著だ。けれども現代的な建築デザインはもちろんのこと、明るいイメージが漂う分、容積による圧迫感が少ないように感じられる。設計・デザイン部門の英知の集結なのだろう。
90年代まで首都圏の集合住宅の象徴として、テレビ、新聞等といった報道では、選挙であれ、台風一過であれ、何かと言えば板橋区の高島平住宅団地が注目された。容積使用率の高さを踏まえての都市の側面を写す上で、きっと持て囃されてきたのであろう。
さて、800世帯を超える「桜上水ガーデンズ」もまた、高層住棟を中心とした8棟から構成されるわけだが、住棟間の距離、個性的な庭園の配置によって、空間が縦に広がったような印象を受ける。高島平とは全く異なるイメージだ。もちろん都心近くでありながら、旧住宅の敷地面積は、驚くほど広い。だからこそ、住環境を限りなく損なうことなく建替えの実現に繋げられたのかもしれない。
ところで、「リビルディング・ロード」(マンション建替えへの道)は、そうそうなだらかではない。区分所有法は、「建替え決議」につき、客観的要件は取り払ったもののコンセンサス80%以上としている。さらに団地型であれば「棟」、「全体」の縛りも出てくる。これをクリアーとすることは容易なことではない。
これまでにこの項で紹介した、建替え実現を成し遂げたマンション、住宅団地にあっても、「建替え推進決議」、「建替え決議」とコンセンサス(法律に限らず)を重ねてきた経緯がある。建替え決議こそ組合員の数、議決権の8割以上として決議できるとするものの、推進決議は法定されていない。また、団地型は棟毎の合意も要求される。複数回の挑戦を経て漸く成立する場合が多いのである。
またこの後、登場してくるのが、決議後の全員一致への擬制である。ここでは、区分所有者間の訴訟という形で現れてくる。最もオーソドックスなケースだと、まずは「建替え決議の無効」、「売渡し請求時の時価」が争点として浮上し闘争が続く。これは、区分所有法にかかる部分である。
次に顔を出してくるのが、「建替え等円滑化法」による「マンション建替組合」の許認可問題をめぐる訴訟だ。もちろん、これだけには限らず、これらに付随する争点が浮上すれば訴訟は続く。建替え実現の背景には、こういった場面が意外と多くあって、一筋縄ではうまく機能しない。
噺は変わるが、同ガーデンズの竣工後のある日、筆者は新住棟の撮影に向かった。自分のカメラを駆使して地表面から背の高くなった新住棟の最上階までを含んだフォットを狙うためだった。ところがなかなかうまくいかない。様々な角度で臨んでは見たのだけれど。そうこうするうち地下駐車場の出入り口から漸くアングルを掴んだ。
夢中でシャッターをきっていると、クラクションがなって1台の自動車が颯爽と近づいてきた。駐車場から出てきた車は、ヨーロッパを代表するあのスポーツカーである。その時、筆者の脳裏に閃光のように走った何気な感覚は、今いるところは足繁く通ったかの桜上水住宅団地ではなかったような気持ちだった(つづく)。
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年7月号掲載)