区分所有3度目の法改正に向けて⑪
区分所有法研における7・8月の議論のテーマは、①被災した区分所有建物の再建、②共用部分の変更に係る決議、③団地内建物の建替えについてである。全て既に議論したテーマを再度精査し俎上に載せている。
具体的には、①から③の議決要件(普通・特別決議)と多数決要件(全体・総会出席者等)を全体の整合性を踏まえて検討を重ねるものとみて良い。他にも若干の法的議論もあろうかと思われるが、外観はこの様に見える。
さて、③における団地内建物の建替え等の円滑化については、既に今年4月「マンションの建替え等円滑化法」の改正を受け、団地における敷地分割制度が施行され、一部街区での建替え事業の実施、あるいは一部敷地売却事業の実施を全員合意によらず多数決で可能となった(除却の必要性に係る認定を受けた住棟を含む住宅団地)。
1960年の住宅公団(現行U R)設立以来、団地と言えば若干の例外を除き「高・遠・狭」(価格が高くて、駅から遠く、しかも狭い)とつい最近に至るまで囁かれていたものを、こうまでしても建替えにシフトすべきか。もちろん当時と異なり交通事情が一変したところもあろうが、筆者としては、あまり歓迎できないことは既に述べた。
一部街区が耐震性を備えない、特定要除却認定を受けた場合、敷地分割が可能ということだが、R C・P C造であれ、年代別に耐震性不足は当然の事ながら浮上している事ではないだろうか(時代を追うごとに規制強化)。だとすれば一部街区に限定するのは至難であろう。
とはいえ、80年代後半、筆者としては、住宅団地の保存・保留・一部建替え構想によって、建替え事業を本格化させることは、合意形成上、特に受け入れられるべき可能性を秘めているとして大いに共感したところであった。
が今は違う。耐震性等を前提とした要除却認定のみでは足りない。地域・地区を対象とした「グランド・デザイン」をも前提に含めるべきである。
高齢化が進み、その先に人口減社会が待ち受けている事は誰もが予測し、誰しもの共通認識であろう。先の「高・遠・狭」のうち「遠」の例外を設けるためには、グランドデザインに基づくサスティナブルの確保が、より重要だ。
放射線状に広がる鉄道アクセスの充実ぶりは、筆者の知る限り首都圏を中心として進展し充実する。が最寄駅と隣接する住宅団地と二次交通を利用しなければならないところとでは、その不動産としての流通価格に雲泥の格差が生じ始めている。
それとは別に鉄道交通網の充実により、駅前再開発も進む。もし条件が整うならば、この再開発に郊外・衛星型住宅団地を引き込むことを考える時期が到来してはいないか(都市のコンパクト化のために)。住宅団地の敷地分割よりは「換地による建替え」も一考だと思われる。
ところで、大規模な住宅団地の3条(65条)団体=管理組合には、法とか政策を超えた「伝統」が芽生え、育まれる。既に紹介した多摩市の「マンション管理セミナー」では、山岡淳一郎氏の講演に加えブリリア多摩住宅(多摩市・2013年入居、1249戸)の2代目理事長による講演があった。旧諏訪2丁目住宅団地(71年入居・640戸)は大規模住宅団地に関わらず自治会組織がなかった。夏祭りを含む各種イベントは全て組合が担う。特段の事情をもって「伝統」が受け継がれる住宅団地が場所を変えて存在したっていいのではないか(つづく)。
明治学院大学兼任講師・本紙客員編集委員 竹田智志
集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年9月号掲載