区分所有3度目の法改正に向けて⑫
区分所有法研が昨年3月に発足して、今年8月で第17回目の議論が行われてから、その後の開催はないようだ。今回は、筆者の昔からの友人である瀬戸内櫓人氏の著作、「小説 団地再生物語」について、この場を借りて紹介することにする。
同書は、A5判136頁。自費出版で入手するためには少し手間だけれども夢があってなかなか面白い。テーマは、サブタイトルで示されている通り『団地型分譲マンションの管理組合が高齢者住宅を造る』というもの。
舞台は、多摩ニュータウン。丘陵に広がるいわゆる山々の頂上付近に位置する、N T草創期建設の団地型分譲マンションを購入した主人公が、さまざまなバリアを克服して同住宅団地内に住民専用の高齢者住宅を造るというのがストーリーだ。
まずは筆者の概観からすると、敷地内に当該住宅の建設など区分所有法上無理。集会施設の増改築あるいは空家住居を管理組合が購入し当該住宅(住戸)を規約共用部分として活用するかといった具合のことを考えてみた。だけれども法的安定性を踏まえると結果的には、民法251条。そうなると困難を越えて駄目かも。こんな結論に至ってしまった。
そこで著者にあたってみたところ、集会施設も空家住戸も管理組合に多大なご苦労が生じるので、これは無し。高齢者住宅を必要とする区分所有者が、敷地の一部を使って当該住宅を建設する(まるで大きな駐車場増設)。その費用は一時金で賄う。入居者は、当該住宅を今、必要としている人たちで、全居住者のうちに将来利用することを希望する人たちをあらかじめ集って置く。これがサイクル化できれば、毎月の賃料は別として各自拠出した一時金が戻ってくる仕組み。当該住宅の入口と出口を明確に提示さえ出来れば、興味津々だ。
本書の根底には、坂井洲二著「ドイツ人の老後」91年、法大出版局があって、2020年には、エコノリ協議会編「分譲住宅に高齢者住宅を造る」を発行している。筆者としてはどうしても、共有法理に落ち着かざるを得ないのだけれど、著作者は、いたって冷静そのもの。「過半数以上の同意を得て、強硬な反対意見がなければ、それで良いのでは」とオーストラリア法を先取りしたような感覚で筆者を驚かせた。
ところで、今年になって、社会福祉法人がマンションの居室を障害者のグループホームとして使用を継続していたものの、管理規約に反するとして使用を禁じた判決が出た。公判されたものではないのだが、筆者が聞くところ、判旨につき、いたって妥当と思われる。
とはいえ、マンション居住者の大半が高齢化した場合、施設併設は今後、大きな課題になろう。特に既存であればあまり問題も生じないだろうが、後付けとなるとそうはいかない。グループホーム自体が、自治体の定める「住宅」の範疇を超えるものではないとしても、普通・一般のマンションと比較し、グループホームに要求される設備機能水準は高度で、費用面でも高額化する。この水準の確保を管理組合に委ね(住宅として)、運営にのみあたるというのでは、ますます普及を困難にさせる。これらの開示と組合の理解を深めることを怠っては、コンセンサスなど進みようもない(つづく)。
【訂正】先回の記事でUR(公団)の設立時期に誤りがありました。正しくは55年7月でした。訂正してお詫びします。
明治学院大学兼任講師・本紙客員編集委員 竹田智志
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年10月号掲載)