区分所有3度目の法改正に向けて⑲

 第7回会議のスケジュールと当該原稿の締切時間が交錯した為、これまでの議論のうち注目されたテーマにつき第6回会議までを振り返ってみようと思う。

 今回改正の目玉は、何といっても各決議にあたっての議決・多数決要件の緩和に焦点がありそうなことは何度か報告した。

 がこれが、団地型マンションの再生における「建替え承認決議」にあっては、「4分の1以上」、「3分の1以上」、「2分の1以上」の反対が無い場合には特定建物の建替えを承認する(「建替え不承認決議」)が取り沙汰されている。これまでとは、まるで反対の発想だ。筆者としては、「建替え決議」に至らない場合、一定期間内に「不承認」の内容把握を行なうという前提で、強固な或いはそうでない不承認を集約し時間内に再度決議を諮ることで、建替え推進或いは非推進を決めるといった方向を探ってみたのであったが(決議までの時間的ロスを考慮)。発想の転換は、当該審議会でも議論されていた(もちろん、選択肢多数の中でのことであるが)。

 さて、読者の方々のうちには、所有者不明専有部分管理制度、管理不全共用部分管理制度について、所有者不明土地に関する規定を前提とする議論の行方に興味を抱かれた方も多いだろう。

 通常の管理組合にとってみれば、この規定が具体化すれば(組合が裁判所に対し不明専有部分の管理に特化した管理人を請求できるか、相続人本人と協力できるのであれば)、一定程度の区分所有者を把握することができる組合にとっては役立つ。ところが相続人が誰かといったことを含むとなると、通常の管理組合にとっては手に余るのではないか。

 筆者の知る限り●号棟●号室の相続人を把握する管理組合は、20年、30年前なら兎も角も、現在であれば皆無に近いのではなかろうか。「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法2003年公布)によって、詳細な居住者名簿の作成は影を潜めたはずだ。区分所有者本人の把握がほぼ限界ではないか。相続人の所在までは分かるまい。伝統的なコミュニティーが2016年以降も続くところは別なのだが。

 以前に防災組織の充実する民間マンションでこんな話を聞いたことがある。「各住戸の居住者名簿は、組合指定の袋に入れて封をして各戸の冷蔵庫に保管する」。万一の際は、この冷蔵庫に保管された情報をもとに家族の安全確保に努めるとのことだった。冷蔵庫はマンションの「ブラックボックス」というわけだ。所有者不明専有・共用部分管理制度は、どう使い勝手を担保するか。具体の事情に当てはめを行う専門的なコーディネーターが必要だと思われる。

 ところで、所有者不明に対する管理の議論と併せ、所有者不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組みの検討も行われている。チグハグな印象もないではないが、当該シリーズの前任者である松本恭治教授のいう「放置マンション」でも何かを決議できるメリットが出てきそうだが、かのマンションに資金があればである。

集会の決議における区分所有者の対応(法務省HPより)

 所有者不明区分所有者を決議の母数から除外する規定は、建替え或いは復旧、終了、極端に区分所有者の所在のわからないマンションで活用可能かもしれないが、当該決議の実施については、あくまでも仮定だけれども、濫用避けるため、その入口部分で裁判所への申請、審査、審判といったプロセスを経るといったことが必要では。これも専門家のアプローチを得ながら取り組むとなると規制が詳細化することで厄介が重なる。(つづく)

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年5月号掲載)