区分所有3度目の法改正に向けて⑯
さて先回は、なぜか俄然注目されるに至った「一棟リノベーション」に触れた記事を紹介したのであるが、手前味噌なことをいうと、この手法の背景はズバリ副題通り「一棟リノベ導入の背景」とした表(グラフ)にあるようだ。
建替えマンションの住戸数は、従前と従後を比較すると1.6倍前後となる。床面積はというと、単棟型が従後1.1倍程度、団地型が1.4倍程度である。一住戸あたりの負担額は96年までが、約350万円であったのに対し、昨年末では約2000万円に迫る勢いだ。
そこで、この費用負担を抑える手法として登場してきたのが、一棟リノベというわけらしい。マンション建替えは、従前区分所有者の合意形成(五分の四決議)と従前居住者の費用負担において、密接不可分の関係にあることは既に当該シリーズ読者には、ご承知おき頂けたであろう。そして住戸数が2倍を超えて3倍になろうとも処分できなければ、ディベ側の参入は見込めないのである。
再生手法が多種多彩になって、コンセンサス緩和が一層進んだとしても、費用負担の歯止めと売却促進は功を奏するのだろうか。何といっても人口減少社会の中でこれを担保するのは、厄介を超えて困難極まりない話のように思える。綿密なグランドデザインを示した上で、徐々に、徐々に進めていくことになるのだろうが。
ところで、法制審議会区分所有法制部会は、昨年末までに第3回会議が、1月16日に第4回会議が行われた。テーマは、前者が区分所有建物の管理の円滑化に係る方策(1)で、①集会の決議を円滑化する仕組み、②共用部分の変更決議の緩和、③区分所有者の責務といったことが議論された模様である。
後者は、区分所有建物の再生の円滑化に係る方策(2)で、①建替え決議後の賃借権等の取扱い、②区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み、③敷地の一部売却制度の構築についてであった。
法制研での議論を叩き台として、同部会でも朧げながら団体の意思決定メカニズムを全体的に緩和する流れと、さらにはマンション再生に向けたメニューの多種多彩化といった全体的な方向性が、いよいよ現実味を帯びてきた感がある。
幸いといえるかどうかは別だが、多種多彩なメニューをどう食していけばよいのか。管理の主体である区分所有者の団体が、どう献立するか。ジワーッと汗が滲むような想いで状況を見つめているのは、筆者だけではあるまい。
この法制審の諮問は確か、「老朽化したマンションの増加を踏まえた管理の円滑化と再生の円滑化」であったはず。管理の充実は、国交省所管の管理計画認定制度だけでは到底済まない。再生における多種多彩なメニューを用意したところで、これを適材適所で活かしていくコーディネートする人材がなければ成果は見えてこない。もし丸投げされれば区分所有者の団体が混乱するだけだ。
このような動きと伴に、中間試案の公表に併せて、日本マンション学会(会長:鈴木克彦京都工繊大教授)をはじめとする不動産関連の学会、全国マンション問題研究会(代表:山上知裕弁護士)、全国マンション管理組合連合会等々の提案・提言に期待が込められてくる。(つづく)
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年2月号掲載)