33.リビルディング・ロード⑧

 ここに古いスクラップがある。多摩諏訪2丁目住宅団地に関わる本誌の記事だ。どちらも筆者の書いたものである。200211月5日付「建替えを促進する側の論理」では、同住宅の小澤満寿雄理事長(当時・故人)が座談会に登場。今後の建替え問題につき、「自治体との協力関係がますます大事になる」と主張されている。

 もう一点は、それから7年後の20092月5日付、「不況の今こそ真価が問われる管理組合とディベ」では、同住宅管理組合の建替え担当、阿部秀寛氏が登場。「われわれだけの(管理組合・理事会・建替え委員会)情報収集というのには限界がある。外部の力をどう導入するか。その際、お金もかかる。どう理解を得ていけばいいのだろう」。

 両座談会の司会を進行しながらも、筆者としては、すぐに回答できるわけではない。小澤さんは、千里NT(大阪市)の事例を参考に議論したのだろうし、阿部さんは差し迫る現実を口にしてしまったのだろう。つくづく厄介な難問が山積していたのだと思う。が、これらは時間と共に解決したのだ(当シリーズno.32

 まちせんは、管理組合と自治体との橋渡し役をこなし、外部の力をフルに活用しつつ、組合に必要な情報を提供した。山田尚之代表「多摩ニュータウン 新時代の鼓動」(諏訪2丁目住宅建替事業アンケート実施 専門家・研究者チーム2017)をいただいた頃、当シリーズの前任者である松本恭治先生と議論をすることがよくあった(週一ペース約2時間)。

 その頃の主題はいつも諏訪2の建替えは上手くいくか。何といっても販売は大変だろう。はてさて売り切れるか。人口統計・住宅価格統計を駆使する松本教授も筆者も「ものすごく大変」で一致する。そして何度かの結論は「NTで最初で最後の建替えだ。上手く行けばいい」。こういった話が続いた。

 ところがである。販売は順調。1310月に竣工し11月から入居を開始。新規入居者648世帯も含めた人口約3300人の新しい街がアッという間に登場することになった。しかも同NTの住宅団地の建替えも継続する。

14年1月まちびらき(「多摩ニュータウン新時代の鼓動」から)

 松本教授の分析では、東京都下や都心、仙台等の大都市を含め、団塊の世代のジュニア達による人口爆発がほとんど起こっていない。NTであれば神奈川県や八王子市といったところから人々をかき集めて、漸く建替えが成立する。これが見えてこないというものだった。それが、あの3本目の矢が放たれた後、分析を試みてみると、従前の人口比率は高齢者比率が約5割。5064歳が2割であった。それが従後、60から79歳が約4割、30から44歳(団塊ジュニア)が3割、0〜9歳が1割5分程度と三つの人口山脈を示し理想的な人口構成を保っていることを示した。

 また、新規の入居者は、松本教授や筆者の予想に反し、都心よりも東側(千葉県側)からの購入者を含め、多摩地区全般から集まっており、こちらの方もほぼ理想的な分布を示している。このことは、今後の首都圏における再開発にも相当の示唆を与えるものではなかろうか。要は、自治体頼みのこれまでの再開発では限界で、痒い所に手が届くような柔軟な発想を持つ再開発を踏まえないと成立しないことの教示と思われてならない(つづく)

明治学院大学兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志

集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年1月号掲載