34.リビルディング・ロード⑨
マンション建替え実例の中には、建替え実現など殆ど考えられないといったものも含まれてくる。いわゆる「特殊解」としての町田山崎住宅団地(旧名称)もさることながら、そもそも指定容積率を上回る建物を建て替えるという至難の技を成し遂げた。新潟県新潟市にある「富士マンション」がそれである。
このマンションは、既存の建物が、敷地面積約740㎡上に鉄筋コンクリート造9階建て、専有床面積40㎡から60㎡、居室部分は2DKと3DKで構成されていた。新住棟は、隣接地約110㎡を加えた約850㎡の敷地上に鉄骨鉄筋コンクリート造13階建て、専有床面積50㎡から85㎡、1LDKタイプから3LDKタイプとバリエーションの豊富な住棟に建て替わった。新潟県新潟市のほぼ中心市街地に位置し、民間建設業者による新潟初の分譲マンションとして登場した。
ほんの少しだが、当該マンション建替えのプロジェクトを追ってみよう。まず、注目すべき点は、a.既存不適格マンションであったこと。b.自己負担といった制約を伴う建替えプランであったことである。これを踏まえながらも区分所有者の全員に近い合意を得つつ取組みを進行させ、完遂に至ったのだ。
もちろん地方都市ではあるものの、ほぼ中心市街地に位置し立地条件面では整っている側面も有している。例えば、当該マンションの平均的住戸を賃貸した場合には、月額12万5000円の賃料が見込めるといったこともプラスに作用した。そして、これを活用することで、現行制度のスキーム内においては、誰もが「困難」とするa、bをクリアーとしての建替えを成功させた。
ざっくりではあるけれど、このプロジェクトの経緯を見てみると、2000年4月に建替え推進決議を成立させ、建替え準備組合の設立を準備、02年2月に設立。区分所有法第62条に基づく建替決議が04年7月、建替え円滑化法に基づくマンション建替え事業・組合施行を採用し、優良建築物等整備事業の指定を受け、いわゆる自主管理の実績や活発な自治会活動の実績を活かし、同組合自らの手による建替え事業を推進させた(2005年竣工)。
同決議以前の厄介な取組みとしては、既存不適格建築物(容積率オーバー)であったため、隣接地を買い入れるなど敷地の面積増を図った。或いはまた総合設計制度の活用により容積率の割増し(基準400%→436%)を新潟市に要請した。保留床の発生を見込めないこともあり、参加ディベロッパー不在の自力・自主建替えを前提に取り組んだ。既存住戸と新住戸を比較すると還元率は平均で20%以下と低く抑えられたものの、各区分所有者による自己負担と事業資金調達に協力的な地元金融機関(全国市街地再開発協会の債務保証、高齢者住宅財団の債務保証 の活用)もあり事業を無事成し遂げたのである。総工事費は参加組合員としてのディベロッパー加入によるものと比べ約20%程度減額されているとする。なお、建替えに参加できなかった区分所有者の住戸については、この当時の競売価格とほぼ同額であるとする1戸当たり平均で約300万円で取得する。
町田山崎、多摩NT諏訪2丁目住宅団地と同様、地元自治体による助成があって、ここでは「新潟まちなか再生等整備事業」の一環として若干の助成が見られた。(つづく)
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年2月号掲載)