43.区分所有3度目の法改正に向けて①
もうご存知の方も多いだろうが、「マンション法の根幹」である区分所有法(「建物の区分所有等に関する法律」)の3度目の改正が目前に迫ってきた。どうも今のところ、主眼は建替えの円滑化に焦点が定まっているように見えるが、果たしてこれで良いのだろうか(「区分所有法制研」で検索)。じっくりと行方を見守りたい。
そもそもわが国の区分所有法は、1962年に施行されているのだが、明治29年の民法第208条に、わずか1か条「数人ニテ一棟ノ建物ヲ區分シ各其一部ヲ所有スルトキハ建物及ヒ其附属物ノ共用部分ハ其共有二属スルモノト推定ス 共用部分ノ修繕費其ノ他ノ負担ハ各自ノ所有部分ノ価格二応シテ之ヲ分ツ」として登場。これがルーツかとずうーっと思ってきたのだが(筆者の勉強不足)、実は23年公布のいわゆるボアソナード(旧)民法にも記述はあった(この法律は公布はされたものの「民法典論争」等が巻き起こり施行はされていない)。
で、よくよく調べてみると、明治期に入ってすぐ、民法典の施行に向けて当時の政府は、その作業に着手し、外国の民法が取り沙汰されていた(当時としては、イギリス、フランス、ドイツの順だろうか)のも事実だが、それに加え同時に、国内の実態把握、慣習をこまめに探る作業が続いていたと見られる。要は、外国法の継受と国内法(実態)調査の二本柱が存在していたのだ。
この点、司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」、「歳月」の実写版を見ているようで、自分が若返る気になってくる。継受を急ぐ動きと実態調査での収穫。驚いたのは、既にこの頃には、区分所有建物らしき建物が全国的に存在していたらしいということ。もちろん、極々稀なケースではあった筈で到底普及はしていないし、木造の建物の階層によって使っている人達が異なっているぐらいなのだろう。しかも明確な所有権など無かっただろうし…。
明治29年の208条に話を戻すと、これまた面白い議論が登場してくる。それは208条の導入を巡って「ほとんどこの世に存在しない区分所有の法規制が必要か」という主張と、「今後、このような形態のものの普及が見込まれる訳だから法を設けるべきだ」と云った攻防だ。もちろん当時としては、一般法の範疇で特別法の議論ではない。
区分所有の研究者としてはどうも後者の意見に賛同しがちなのだが、喧々諤々の議論というのは実に素晴らしい。
ところで、改正法の方向性はどうも、建替えにつきコンセンサスの緩和が主議題のようにも伝わってくる。標準規約の改正(今年6月)にあっては「コロナ禍」への対応で終始した。本当にそれだけでいいのだろうか。報道は老朽化マンションの増加を踏まえ、耐震性の向上、安全・安心なマンションへの脱皮を謳う。でも、それは建替えへのシフトのみを後押しするもので構わないのか。
筆者としては、建替えが解決策の一翼を担うものであることは否定しない。本紙においても、その展開につき報道は密であったと思う。蓋し、これだけではない筈だ。新首相が「新自由経済からの脱皮」といったスローガンを打ち出した(具体的には未だ聞こえてこない)。国内人口の減少傾向を踏まえた秩序あるマンション施策がそろそろ登場してきてもいいはずなのだが…。(つづく)
明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員研究員 竹田智志
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年11月号掲載)