長期修繕計画と大規模修繕工事の基礎講座 1

■連載にあたり

 マンションの安全で安心な居住環境、大切な資産としての価値を維持していくには、日常的な点検や保守を十分におこなうとともに、長期修繕計画にもとづき、適切な時期に的確な修繕をおこなうことが必要です。

 国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、長期修繕計画にもとづき計画的に実施する修繕工事および改修工事を「計画修繕工事」、建物全体または複数の部位についておこなう大規模な計画修繕工事を「大規模修繕工事」と定義しています。長期修繕計画で大規模修繕工事をはじめとする各種計画修繕工事の時期や内容、必要な費用をあらかじめ把握し、区分所有者がその内容を共有することは、円滑な計画修繕工事の実施に大きく寄与します。

 現在では長期修繕計画を策定して、計画修繕工事を実施するという考え方は広く普及していますが、今回あらためて長期修繕計画とはどのようなものか、その作成および見直しの方法、最近の大規模修繕工事の傾向などについて、6回にわたり基礎的内容を解説します。

■長期修繕計画と計画修繕

 マンションという建築物は、さまざまな建築材料と設備機器で構成されています。例えば、建物の構造体を構成するコンクリートは、砂利・砂・セメント・水が主成分で、窓・扉・手すりなどの多くには、アルミ・ステンレス・鉄といった金属やガラスなどが使用されています。建物の外装には陶磁器質タイルや塗料などが仕上材として施され、室内への雨漏りやベランダや廊下からの漏水を予防する防水材料には多種多様な材料があります。

 ライフラインともいえる給排水管はもちろんのこと、照明や空調等の電気設備は現代の生活に欠かすことのできないものです。情報通信や防災設備などのシステムはますます高度化しています。

 高層あるいは超高層のマンションでは、エレベーターが無いと日常生活そのものが成り立ちません。駐車設備として上下昇降式、パズル式、タワー式等の機械的設備が設置されているマンションも少なくありません。

 そうしたマンションに使用されている多種多様な建築材料や設備機器類はそれぞれ耐用年数に違いがあり、修繕や取替えが必要となる時期や頻度にも差異があります。
 それぞれの修繕や取り替えを、都度ばらばらにおこなっていては、経済性の問題はもちろんのこと、思わぬ事故や不具合が発生することもあり、居住者の日常生活にも少なくない影響を及ぼすことも考えられます。

 建築材料や設備機器類などの耐用年数を考慮し、ばらつきのある修繕時期や周期をできだけ集約することで経済性を高め、合理的かつ効率的に計画的な修繕を実行するために「長期修繕計画」は必要とされます。

■長期修繕計画と修繕積立金

 マンションの外壁修繕や屋上防水、窓や扉の取り替え、給排水管やエレベーター改修などには、時間的にも費用的にも区分所有者に大きな負担がかかります。

 時間や多額の費用を必要とする修繕工事をおこなうために、その都度一括で区分所有者から資金を徴収することは、突然の金銭的負担が大きくなり、急な必要資金を用意できない区分所有者がいることも考えられます。

 区分所有者間の合意形成が成立しなかった場合、資金が足りずに必要な修繕工事ができないという事態にもなりかねません。

 「長期修繕計画」では、将来30年程度の期間を対象として、比較的高額な費用を要する修繕工事を、いつくらいの時期に、どのような内容で、いくらくらいの費用で実施するかの目安を定めます。

 長期修繕計画で計画された修繕工事に備え、管理組合が区分所有者から集めて積み立てる資金が「修繕積立金」です。

 なお、日常的な保守・点検や清掃および小規模な修繕費用は、修繕積立金とは区分された管理費から拠出されます。

 修繕積立金は長期修繕計画にもとづきおこなわれる計画的な修繕工事の資金として使用するのを基本としますが、思わぬ事故や災害などで損傷した箇所の修理や修復などにも活用されます。

株式会社スペースユニオン 代表取締役 奥澤健一

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年10月号掲載)