長期修繕計画と大規模修繕工事の基礎講座 2
■長期修繕計画の黎明期
長期修繕計画的なものが作成され始めたのは1970年代頃からと思われます。現在のような修繕積立金制度も十分に確立しておらず、経験も乏しく技術的にも様々な試行錯誤が繰り返されていた時期です。当初は修繕周期表だけあったり、計画修繕項目もかなり簡易なもので、マンションの建物や設備の実態と異なる内容のものも少なくなかったようです。
1980年代頃になると、マンションの大規模修繕工事も本格化し始め、それまでの外壁のお化粧直し的な内容から、コンクリート躯体の保護や耐久性の向上等に重きが置かれるようになります。
長期修繕計画の作成手法は十分に確立されてはいませんでしたが、マンションの改修に先駆的に取り組んでいた建築士事務所や、公団系あるいは民間の大手管理会社などによりさまざまな提案がなされていました。
■長期修繕計画の確立
2000年に成立した「マンション管理適正化法」に基づき、2001年に公表された「マンション管理適正化指針」で、「長期修繕計画の作成及び見直し等」が、管理組合の業務のひとつとして位置づけられました。
2004年には(財)マンション管理センターから「長期修繕計画作成・見直しマニュアル」が提案され、マンションにおける長期修繕計画の体系化が試みられています。
そして2008年に国土交通省監修による「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」(以下、長期修繕計画作成ガイドライン)が策定されました。長期修繕計画の作成や見直しのための標準的な様式と、長期修繕計画の基本的な考え方、長期修繕計画標準様式を使用するための留意点や作成手法が提案され、マンションにおける長期修繕計画が一定の確立をみたといえます。
■長期修繕計画の普及
長期修繕計画の普及状況を5年ごとに行われる国土交通省のマンション総合調査にみると、1987年では65・5%であったものが、最新の2018年では90・9%まで上がっています。未だに作成していないマンションもわずかにあるものの、広く普及し定着していることが分かります。
■分譲時の長期修繕計画
現在では長期修繕計画は新築分譲時に作成され、売買契約締結前の重要事項説明時にその提示と内容の説明を受けます。
しかしながら、長期修繕計画の定型を当てはめた程度で、当該マンションにおける実際の建物や付帯する設備とその内容が大きく乖離していたり、修繕積立金の初期設定を著しく低額にし、将来的に大幅な段階的値上げや一時金の供出が想定されるなど、分譲当初に提示される長期修繕計画はその内容に問題のあるものが少なくありません。
分譲時に提示される長期修繕計画や修繕積立金はあくまで参考とし、管理組合の活動が軌道に乗り始めたらできるだけ早い段階で、当該マンションに適合した長期修繕計画に見直し、修繕積立金の適正額を検討する必要があるといえます。
■マンション管理適正化法改正と長期修繕計画
マンション管理の適正化を推進してその水準を底上げしたり、老朽化が懸念されるマンションの再生を図るための施策が最近さまざま講じられています。
2020年にはマンション管理適正化法が改正され、国による基本方針の策定のほか、地方自治体による基本方針に基づくマンション管理適正化推進計画の作成、ならびに一定の基準を満たすマンションの管理計画を認定するという制度(管理計画認定制度)が創設されました。
管理計画の認定を受ける基準の一つに「長期修繕計画作成および見直し」に関する事項が設けれており、それと連動するかたちで国土交通省の長期修繕計画ガイドラインなどが2021年に改訂されています。
株式会社スペースユニオン 代表取締役 奥澤健一
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年11月号掲載)