長期修繕計画と大規模修繕工事の基礎講座 3

■国土交通省監修のガイドライン

 国土交通省監修による「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン同コメント」は、2008年に策定され、管理計画認定制度と連動するかたちで、2021年9月に改訂が行われました。主な改訂点は以下の通りです(国土交通省:長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメントの改訂(概要)より)。

①望ましい長期修繕の計画期間として、改訂前のガイドラインでは25年以上としていた既存マンションの長期修繕計画期間を、新築マンションと同様、大規模修繕工事2回を含む30年以上とした。

②大規模修繕工事の修繕周期の目安について、工事事例等を踏まえ一定の幅を持たせた記載とした。
※ 例:外壁の塗装塗替え:12年 → 12~15年、空調・換気設備の取換:15年 → 13~17年

③社会的な要請を踏まえて、修繕工事を行うにあたっての以下のような有効性などを追記した。「マンションの省エネ性能を向上させる改修工事(壁や屋上の外断熱改修工事や窓の断熱改修工事等)の有効性」など。

 社会や経済情勢の変化、最近の建物や設備および仕上材や防水材の耐久性の向上といった技術進歩の状況が反映されています。

■「長期修繕計画標準様式」における推定修繕工事項目

 ガイドラインにおいて提案されている「長期修繕計画標準様式」では、計画の中で設定する推定修繕工事項目を、「Ⅰ 仮設」「Ⅱ 建築」「Ⅲ 設備」「Ⅳ 外構・その他」と大きく4つに区分し、さらに19項目に分類されています。

 マンションによって全ての項目が該当するわけではないと考えられますが、建物や設備を維持・保全していくうえでの基本的項目となっています。
 

マンションの現状における性能や機能、調査・診断の結果などを踏まえて、計画期間においてどのような生活環境を望むのか、そのために必要とする建物および設備の性能・機能といった、いわゆるマンションの「ビジョン」について十分に検討することが必要と提案されています。

 改訂されたガイドラインでは、前記した3区分19項目の推定修繕工事のほか、必要に応じて「Ⅴ 性能向上工事項目」「Ⅵ 専有部分工事項目(専有部分配管)」「Ⅶ 諸経費」の3項目が新たに提案されました。

 高経年のマンションの中には、耐震性が不足していたり、断熱性や防犯面で新しいマンションに比べて劣る建物も存在します。経年に伴う生活様式や社会環境の変化などを踏まえ、建物や設備の性能や機能の向上を図る観点も、住まいとしての環境や価値を維持していくうえで重要な課題といえます。

■共用部分と一体的に行う専有部分の工事

 共用部分の給排水管の改修と専有部分の給排水管の改修を同時におこなうことで、専有部分の給排水管の改修を単独でおこなうよりも費用が軽減される場合には、これらを一体的に工事することも考えられます。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の給排水管の改修について記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて管理規約に規定するとともに、先行して工事をおこなった区分所有者への補償の有無などについても十分留意することが必要との提案もなされています。

 なお、修繕積立金から専有部分の工事費用として拠出する場合には、その対象を共用部分と構造上一体となった部分及び共用部分の管理上影響を及ぼす部分(いわゆる横引き配管など)に留め、これに連結された室内設備類は区分所有者の負担とすることが相当とされています。

株式会社スペースユニオン 代表取締役 奥澤健一

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年12月号掲載)