長期修繕計画と大規模修繕工事の基礎講座 6

■駐車場料金収入と修繕計画

 駐車場使用料は管理組合にとって貴重な財源であり、管理費会計や修繕積立金会計に繰り入れている場合が少なくありません。収入面で駐車場使用料への依存度が高いほど、使用料収入の変動が管理費や修繕積立金の額に影響します。利用率が低下して駐車場使用料の収入が減ったりした場合には、駐車場使用料の増額や、繰入先である管理費会計や修繕積立金会計も含めた収支計画の見直しが必要となります。

 特に機械式駐車場の場合は平面式駐車場に比べて、その点検や修繕、将来の設備更新などに多額の費用を必要とします。古くなるにつれてメンテナンスや修理費用がかさんだりした場合には、管理組合にとって経済性の面でお荷物となりかねません。長期修繕計画の作成あるいは見直す際に将来的な在り方を確定することは困難ですが、利用率の低下傾向が続いて使用料収入の改善が期待できないときには、維持費の少ない平面化を検討する場合もあります。

■長期修繕計画に基づく大規模な修繕実施に際する留意点

 マンションの計画修繕のなかでも、特に以下の項目は高額な費用を必要とすることが少なくありません。マンションに付帯する設備や施設により差異はあるものの、長期修繕計画において修繕積立金の適正額を検討する際のポイントとなります。
①外壁等大規模修繕工事
②開口部(窓)改修工事
③給水設備改修工事
④排水設備改修工事

 長期修繕計画において設定された各種修繕工事の時期はおおよその目途であり、確定したものではありません。建物や設備の経年変化の状態により修繕が必要となる時期は変動します。経年劣化の状況が軽度であれば、実施時期を延伸させることで、資金的な上積みを図ることも考えられます。長期修繕計画に沿って実施するかどうかは、その時点で調査診断などをおこない判断することが望まれます。

 また、長期修繕計画で設定された修繕や改修の仕様あるいは工法は、工事の実施計画とするものではありませんし、計上された修繕工事費もあくまでも目安となる概算費用であり、確定的なものではありません。修繕工事の実施に際しては、建物や設備の経年変化に応じた細部の検討を必要とします。
 長期修繕計画において修繕工事の実施時期を確定的にとらえたり、工事の仕様や工事費用の精度を突き詰めたりするのも、あまり大きな意味は持ちません。工事実施の準備段階において、工事内容の具体的な計画や設計に基づき、工事会社などから見積もりを取得することが必要となります。

■長期修繕計画の定期的な見直し

 長期修繕計画における推定工事費用は、計画の作成あるいは見直し時点における価格を基準に算定されるのが一般的ですが、急激な社会情勢の変化や価格変動が生じる場合があることにも留意しなければなりません。

 そのほか、現状で最新の設備が導入されている築浅のマンションでも、やがては時代遅れの性能や機能となる時期がくることも否定できません。最近は自宅でのリモートワークの機会が増えていますし、電気自動車の普及に向けてマンション内に充電設備を新たに設けるなど、生活様式や社会環境の変化に対応するための事柄についても、長期修繕計画を見直すうえで検討が必要になると思われます。

 長期修繕計画は作成あるいは見直し時点における状況が前提となっています。計画作成以降の修繕実施状況や建物や設備の経年変化、工事費用の変動、改修技術の進歩、居住者のニーズや経済や社会情勢の変化など考慮して、5年程度ごとに見直しをおこなうことが望まれます。

株式会社スペースユニオン 代表取締役 奥澤健一

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2024年3月号掲載)