3.経年によるマンションの傷みとその対応(2)

2-1.建物・設備の物理的老朽化

(2)設備機器・配管の傷み
 マンションには様々な設備機器が設けられています。これらの設備機器が故障すると日常の生活に支障をきたすことは言うまでもありません。故障やトラブルの発生を未然に防ぐには、日常のメンテナンス・計画修繕に十分留意し、設備機器の機能を最大に活かす必要があります。また、毎日の生活に欠かすことのできない電気やガス・水道(給水設備)・生活排水(排水設備)はどの様な仕組みで供給され、また排水されているのかも、ある程度知っておかなければなりません。これらの設備は様々な装置と配管によって各住宅に送られていますが、マンションの規模によって異なり、どの様な設備が設けられ、どの様な仕組みになっているかは、建物の竣工図によって知ることができます。

 これらの設備機器・配管等の傷みの程度は、設けられている場所(屋内、屋外、地中、水中)、部材(機器・配管・配線等)を構成している材料、使用する頻度、日常のメンテナンスの状況と密接に関連します。したがって、耐用年数も状況によりかなり異なります。また、建物の仕上材と異なり、通常目に見えない箇所にあるものが多いことから注意が必要です。

A.給水・排水設備の傷み
1.給水設備機器・配管類
*高置水槽・受水槽等の傷み
 高置水槽は屋上に、受水槽は地上設置(屋外・屋内)のものと、地中埋設のものとがある(新築の建物では地中埋設のものはない)。材質は鋼板製・FRP製パネルで、地中埋設型のものはコンクリ-ト製となる。経年により鋼板製・FRP製では外面パネル・接続ボルト等に、また、架台にも傷みがでる。コンクリ-ト製ではひび割れ発生による漏水に注意を要する。

*ポンプ等の給水機器の傷み
 給水方式によりポンプの種類、制御方式が異なる。定期的なメンテナンス(日常点検、オ-バ-ホ-ル、更新)が行われていれば特に問題はない。

*給水配管の傷み
 配管材料によって傷みの状況はかなり異なる。一般的に配管材料の継ぎ手部、異種配管の接続部に錆びが発生しやすく、赤水の原因となっている。特に、住戸内の給水配管の傷みは更新が困難であるため(床下配管・壁内配管)問題が多い。

給水管のバルブ内部のサビによる傷み

高架水槽と給水配管外部の傷み

2.排水管
*雑排水管(台所、浴室、洗面系統)
 一般に鋼管または耐火被覆二層管、及び硬質塩化ビニ-ル管が使用されている。雑排水管では、管内を流れる排水に厨雑芥や脂肪分が混ざっているため、これが管内に付着し管が詰まる恐れがある。特に、台所の排水管は脂肪分などの付着により、種々の詰まり現象が起きやすい。また、配管の継ぎ手部分に傷みがでやすい。
*汚水管(便所系統)
 建物内部では主に排水用鋳鉄管、耐火被覆二層管、または鋼管が使用されている。管の内径は雑排水管に比べ太く(90~120mm)、したがって、脂肪分などによる詰まりは少ない。しかし、汚水配管と雑排水管を共用管として設計しているものもあり、これらは定期的な清掃が必要となる。

*雨水排水管
 屋根、バルコニ-などの雨水排水で、一般的に硬質塩化ビニ-ル管が使われ、雨水タテ樋と言われている。タテ樋は屋外配管で、そのうえ直管のため、設備の中では比較的事故は少ないが、硬質塩化ビニ-ル管が使われていることから経年による傷みがでる。また、ル-フドレイン(雨水の流し込み口)の周りにゴミや泥、落ち葉が溜って排水が悪くなることもある。屋上、バルコニ-に水が溜ることは、階下への漏水や防水層の劣化を早めるため、屋上などは日頃の点検と清掃に注意が必要。

下階天井裏から見た排水管

3.屋外埋設排水管
*雑排水管及び汚水排水管は、屋外で桝に接続され、埋設された管を通ってマンホ-ルから下水道へとつながっていく。雨水は、敷地内の雨水桝から道路の雨水管に接続され、河川に放流されるのが一般的である(雨水と雑排水とが合流しているものもある)。

 雑排水管及び汚水埋設管も清掃が必要で、埋設管の勾配に異常があると、その部分が詰まりやすくなり、排水が桝から溢れたり、住戸へ排水が逆流するなどのトラブルが生じる恐れがある。更に、樹木の根が管の接続部から入り込み、詰まりの原因になることもあり、マンホ-ルからの臭気発生、汚水の溢れに注意が必要。

 雨水桝には、流れ込んだ泥や砂を溜めるための「泥溜り」があるが、ここでも木の葉などが溜り、詰まりの原因となるため、この「泥溜り」の清掃も定期的に必要となる。

※給排水設備では、機器の更新、配管類の更新・更生等が長期修繕計画の対象項目となります。これらは、使用している機器、日常のメンテナンスによって更新時期は異なり、また、その配管材料、水質によっても傷みの度合いに違いがでます。したがって、修繕実施の時期(周期)では一定の巾を持たせ設定する方法もとられています。

阪神大震災の後に更新された高置水槽。側板の補強も従来のものより堅固なものになっている。

高置水槽の天板部分の補強。新たに天板部分もステンレス製のターンバックルが設けられている

B.ガス設備の傷み
1.屋内ガス配管
*通常ガス配管には亜鉛メッキ鋼管(白ガス管)が用いられている。 ガスは気体であるため給水管のような内部の腐食は少ない。また、ガス事業法により法定点検(ガス漏れの検査)が義務付けられている。屋内配管でも配管場所により外部が腐食する場合がある。湿気の多い場所、1階の床下配管等では配管の外部腐食に注意を要するため、カラ-鋼管(外面防食鋼管)等が用いられる。

階段室でのガス配管更新。パイプシャフト内で更新できず、階段室での露出配管は狭くなるため、壁の一部を壊し新規配管している。

2.屋外配管
*屋外の配管は地中埋設であるため、配管外部の腐食に注意を要する。原因は土壌によるもの、電気腐食によるもの、地盤沈下の影響等が考えられる。これらが原因によるガス漏れに注意が必要、20年以上経過したものでは更新しているものが多い。過去の事例では敷地内配管は全て管理組合で更新しており、この場合、郊外団地型の大規模なものでは配管延長が大きく、かなりの費用を要している。

*近年(概ね1975年以降)ではPLP管(ポリエチレンライニング鋼管)、また、最近では耐震性の大きいPE管(高密度ポリエチレン管)が用いられるようになったことから、従来の配管と比べかなりの耐久性が期待できる。但し、屋外工事(道路、駐輪場、駐車場の増設工事等)により配管を傷つけないよう注意が必要である。

3.ガス容量の問題
*古くなった湯沸器を大型のものに更新(性能アップ)する際に、ガス容量が問題となることがある。更新する住戸数が少なければ問題ないが、全戸更新するような場合には、建物全体のガス供給量(配管のサイズ)のチェックが必要となる。これらの問題を契機にガス配管を全面更新しているマンションもある。

C.電気設備の傷み
 電気設備には様々なものがあります。大まかに分類すると以下の内容です。
強電設備(受変電設備、幹線設備、動力設備、照明・コンセント設備等)

高層マンションの電気室内に設けられた受変電設備

情報関連設備[弱電設備](TV共聴設備、電話設備、ホ-ムオ-トメ-ション設 備、マルチメディア設備等)
防災設備(火災報知設備、防犯設備等)
避雷設備

これらの設備はマンションの規模(住戸数、階数等)によって仕組みが異なります。

一般的には1棟の規模が大きく、高層のものほど電気設備関係の仕組みは複雑((1)~(4)の全てを備える)になってきます。従来の中層マンションでは、(1)強電設備の一部と(2)TV共聴設備、電話設備等が主体でしたが、近年は情報関連設備として様々なものが設けられています。

階段室内のパイプシャフト内に設けられたガスメーターと電話設備の端子盤

 長期修繕計画では、現状の機能維持から改善(グレ-ドアップ)を図る検討が必要となりますが、情報関連設備では未だ将来の方向性に不確定要素が多く、既存のマンション設備の改修をどのように行うか、検討課題となっています。

 従来の長期修繕計画で取り上げられていた主要項目では、下記の内容が上げられます。

1.照明器具・電灯配線・ポンプ制御盤等
*照明器具の塗装の劣化:錆びの発生、更に器具の絶縁不良等、経年により傷みが出てくる。器具の劣化は漏電・感電の恐れがあり、また、火災発生の原因ともなるため注意が必要。同時に照明器具の配線の劣化もあり、特に屋外灯の埋設配線の絶縁不良に注意を要する。

*制御盤・開閉器等の盤類の経年による劣化:ポンプ制御盤は給水設備機器をコントロ-ルしていることから、これらの傷みはモ-タ-類の運転に支障をきたす。また、近年、ポンプ更新に伴い制御盤等の更新(インバ-タ-制御)を同時に行うものが多い

給水設備の圧送ポンプと制御盤

*近年、建物全体の電気容量の不足問題が出ている。古い建物では15~20アンペアの容量だが、最近では家電製品の普及により30~40アンペアが必要となっている。電気容量を増やすためには幹線改修(建物全体の容量を増やす)の必要がある。

2.TV共聴設備
*TV共聴アンテナ等の経年劣化:錆びの発生、素子の傷み、アンテナ支線等の傷みに注意を要する。
定期的な点検と一定の時期に更新が必要。ブ-スタ-等については、一斉交換、劣化部のみの随時交換とがある。

*衛星放送設備の新設:TV共聴設備の改修の一環として行うことが多い。UV・BS、デジタル放送等、既設テレビ配管経路の問題もある。建物規模により受信方法の検討が必要。

D.防災(消防)設備関係の傷み
1.屋内消火栓・連結送水管設備
*通常、10階建以上の建物に設置され、法定点検が義務付けられている。消火栓は設置場所にもよるが、器具の収納箱(消火栓BOX)に傷みが出ているものが多い(特に、開放廊下等に設けられたもの)。配管も経年により傷みがでる。特に、連結送水管の屋外埋設管に注意を要する。

開放廊下に設けられた消火栓設備。消火栓BOX底部と扉廻りに傷みが出る

2.自動火災報知設備
感知器・発信機・受信機・音響装置等が1セットになっている。これらも法定点検が義務付けられており、メンテナンスされている。

3.誘導灯・誘導標識・防火扉
照明器具の中には非常電源を内蔵した「非常用照明器具」がある。誘導標識類も同様のもの、照明器具同様に経年により劣化するため、内部の非常電源を含め一定の時期に更新が必要。
防火扉は温度ヒュ-ズまたは煙感知器と連動して作動するもの。扉の塗装によるメンテナンスと、これらの作動装置の機能管理に注意が必要。

E.エレベ-タ-設備の傷み
1.扉、内装材
*エレベ-タ-の扉、出入口枠(三方枠)等では、塗料の傷みと錆びの発生が上げられ、通常塗装によるメンテナンスが必要となる。

 また、エレベ-タ-の篭(人の乗る部分)では内装材の傷みがある。内装材の傷みでは落書き、イタズラによるものが多い。これらは張替等の更新となる。

2.エレベーター機器
*エレベ-タ-設備の機器では、日常の保守点検、定期検査が法律で義務付けられている。これらの機器の更新は20~30年頃と考えられる(この頃になると、古いものであるためメンテナンス部品の交換に支障が出てくると言われる)。

 更新は建物の構造部とガイドレ-ルを除くその他の設備機器が対象となり、この際には当然性能向上(グレ-ドアップ)したものとなる。更新には高額の費用を要するため20年を経過した高層マンションでは早い時期からの検討が必要となる。

 ※以上、「マンションの設備機器・配管の傷み」に関して、大まかにその状況の説明をしましたが、設備関係には様々なものがあるため、個々の内容については日常のメンテナンスの状況を踏まえ、十分に検討の上改良・修繕・更新を行っていくことが大切です。

(文責 一級建築士・関東学院大学工学部 田辺邦男)

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