管理会社がすすめるマンション居住者と管理組合がしておきたい防災の備え:2019年9月号掲載

 近々発生が予想される南海トラフ地震や首都直下地震。いつかは起きるこれらの大規模災害に備え、東日本大震災等を経験したマンション管理会社に、被災後のマンション内での生活及び復旧を円滑にするため、居住者及び管理組合がやっておきたいこと等を聞いた。

管理会社も身動き取れず

 今回取材した複数の管理会社担当者の共通の認識として、被災直後は管理会社も身動き取れず、何もできないということであった。

 大規模災害発生時、当該地域の管理会社及びその社員も被災者である。道路等のインフラが復旧しないことには現地入りが困難なため、何らかの手助けができるまで相応の時間を要するとのこと。その間、マンション居住者及び管理組合は、「自助」の力を高めておくことが必須で、管理会社が駆け付けるまでの時を乗り切る必要がある。

居住者の備え

①最低3日分の備蓄を
 各家庭で最低3日は過ごすことが出来る食料や水を備蓄。また排水管が破損し、トイレの水を流せないこともあるため、簡易トイレの準備も必要とのことであった。

②家具の固定
 建物倒壊の恐れが少ないマンションでは、室内待機が基本となる。しかし家具が固定されず転倒し、さらに家具内の什器が散乱することで、室内待機が困難となる。家具及び什器が壊れることでごみとなる。災害後は行政のごみ収集が追い付かず、災害ごみの問題が発生する。ごみ減少のためにも家具の固定は重要とのこと。

管理組合の備え

①防災組織の再構築
 管理組合内に防災組織を設けているマンションも多いと思われるが、自立的に動ける組織になっているだろうか。理事会を中心とした組織の場合、災害が理事会メンバー不在時に発生したとき、肝心の防災組織が機能しない可能性がある。
そのような事の無いよう、マンション居住者の誰もが被災後の活動に参加できる防災組織づくりが必要である。

 ある管理会社では防災訓練の際、従来の「人を呼んで防災の経験談等を語ってもらう形式」から、居住者数人のグループを作り、その中で、被災時の専有部分、共用部分、街の様子に分けて、どのようなことが起きるかを議論してもらい、それをグループ別に発表し合う形式に変えた。

 こうすることで居住者間に多くの「気づき」が生まれ、それがマンションの防災対策に生かされるとともに、誰もが防災対策に取り組む動機付けに繋がっているという。

②居住者名簿の更新
 災害発生後、居住者の安否確認を行う際、手助けが必要な居住者がどこにいるかを把握するため居住者名簿が欠かせないが、更新されていないため、安否確認に手間取ったことが多かったようだ。そのため、随時名簿の更新が行われているか、確認しておきたい。併せて、日頃から居住者間のコミュニティが活発であることも、どこに誰がいるかを知るきっかけとなるので重要とのこと。

③防災倉庫の鍵の管理
 災害はいつ起きるかわからない。理事長が鍵を管理し、日中、理事長が外出中に災害が発生。しばらく戻れない状態になると、せっかくの備蓄品もしばらく使えない。このような事態を避けるため、被災時に困らないような鍵の管理ルールを決めておくことも必要とのことだ。

④地震保険への加入
 被災後、建物が壊れていれば修復が必要となるが、この時役立つのが地震保険の保険金。被災地では、建物等の修復は公共性の高いものから優先的に行われ、マンションは後回しになりがちなため、資金の問題から合意形成が遅れると、さらに修復時期が遅れる。

 しかし、地震保険の保険金があれば、修復費用全額を満たすものでは無くても、合意形成を促進する方向に動くため、地震保険は加入を検討したほうが良いという。

(2019年9月号掲載)