耐震改修工事のいろいろ 工法の選択は専門家とよく相談して:2018年3月号掲載
東日本大震災から7年。以来、災害対策の一つとして旧耐震基準建物の解消に向け、官民挙げた取り組みが行われている。そこで、建物の耐震性を向上させる耐震工法にはどのようなものがあるのか、そして工法の選択はどの様に行われるのだろうか。
耐震改修工法の種類
耐震改修工法は、耐震性に問題のある建物の改善すべき点や必要とされる性能などにより、次の3つに分けられる。
1 強度を向上させる工法
大地震に耐えられる強度のない建物の壁・柱・梁等を補強または新設し、建物の頑丈さ(強度)を向上させる。
●主な工法
・RC壁増設ー耐震壁のない既存建物の柱・梁フレームや壁厚の薄い壁に鉄筋コンクリート造の壁(RC壁)を増設する。
・外付けフレーム補強ー既存建物の柱・梁フレームの外側に、新たにフレームを設ける。
・枠付き鉄骨ブレース補強ー建物の耐震壁の無い箇所に鉄骨ブレースを挿入する。
2 粘り強さを向上させる工法
建物の頑丈さ(強度)はあるが粘り強さ(靭性能)がないため、大地震時に破壊することが想定される建物の粘り強さを向上させる。
●主な工法
・連続繊維巻き補強ーピロティ階または一般階の柱に炭素繊維シートを巻き付ける。
・鋼板巻き立て補強ーピロティ階または一般階の柱に鋼板を巻き立て、躯体と鋼板を一体化する。
3 構造上のバランスを改善する工法
一部の階だけ耐震壁が無い、建物構造が途中の階で変わる(鉄筋コンクリート造から鉄骨造り)など、バランスが悪い建物に、壁等を新設し、バランスを改善する。
●主な工法
・耐震スリットの設置ー柱に取りつく腰壁やそで壁と柱の間にスリット(隙間)を設ける。
・RC壁増設(前掲参照)。
工法の選択は居住者への影響に配慮を
耐震改修工事は、居住者が在宅のまま行われるなど、居住者への影響が大きくなるため、なるべく影響の少ない工法が選択される。
居住者への影響は、次のものが考えられる。
■工事中
①騒音・振動・粉塵の発生
仕上げ材の除去やコンクリートのハツリ時等に、騒音・振動・粉塵が発生する。
②仮住居への移転
住戸内部に作業者が立入る工法では、工事中、仮住居への移転が必要な場合がある。
③廊下・階段等の通行支障
工事の作業スペースや資材置き場として、廊下や階段の一部が使用され、通行に支障をきたす場合がある。
④その他の支障
工事により、停電、断水、空調停止が必要な場合がある。また、安全性・セキュリティに配慮して、警備員の常駐や一時的な配置が必要な場合がある。
■工事後
①使い勝手への影響・面積の増減
ブレース工法の様に、補強部材が住戸内に設置されると、使い勝手に影響したり、専有面積が減る場合がある。
②日照・採光・圧迫感の影響
補強部材を開口部に設置する工法では、日照・採光が遮られたり、圧迫感がある場合がある。
③外観への影響
ブレース補強等の工法は、鉄骨が露出し外観に影響を与える場合がある。
耐震改修に詳しい業者によれば、「一部の区分所有者に影響が出る工法では合意形成が難しいこともあるため、鉄骨ブレース等の工法は避けることが多い」そうだ。
改修にかかる費用は
気になるのが耐震改修にかかる費用だが、業者によれば「個々の建物により、工法の組み合わせや費用が異なる。また、国や自治体の補助を活用することで、かなり費用を抑えられるケースもあるが、自治体により補助の内容も異なるため、最終的な費用は一概には言えない」ということであった。
建物の耐震性を高めるには、構造に詳しく、適切な施工方法を選択できることはもちろん、補助事業にも詳しい専門家に依頼することが大切なようだ。
なお、国や自治体の補助については、別の機会に取り上げる。
(2018年3月号掲載)