30年マンションに向けて

 マンション300万戸時代の到来で建物の維持・保全はますます重要な課題になっている。十分な手入れをすれば、マンションは思いの外、長持ちすることもわかってきた。そこで、日住協協力技術者の藤木良明氏(工学博士・一級建築士)にマンション修繕のポイントを語ってもらうことにした。

21 排水管の保全対策
22 電気の容量アップ
23 防災設備の見直し
24 エレベーターの点検・交換
25 マンションの再生をめぐって
(1~20のバックナンバーは、無料相談室をご利用ください)


25 マンションの再生をめぐって

 1999年に、マンションの建替えをめぐる二つの裁判の第一審判決が下された。一つは、神戸の震災を受けたマンションの復旧をめぐる事件、もう一つはその時点で築32年目を迎える団地型マンションの建替えである。いずれも建替えに反対する原告側の敗訴に終わっているが、現在、控訴審中であり、上級審の判断は予断を許さない。

 ここでは、第一審の法廷であまり審議されることのなかった原告側の主張を取り上げて、ひとつの建物に住む者たちが、なぜお互いに争うことになったのかを考えてみる。

●グランドパレス高羽の場合
 グランドパレス高羽は、六甲の山裾にある178戸の民間分譲マンション。阪神大震災で被害を受け、建替えか、補修かをめぐって今日に至っている。

痛ましい姿のままのグランドパレス高羽

 建物はエキスパンションで接合されており、この部分の被害と雑壁まわりのX状のひびわれが目立つ。被災当初、管理組合は補修を考えていたが、建替えコンサルタントが乗り込んだことで事情は一変する。「被災マンションは直しても傷物。流通価値は低い。建替えれば、投資額に見合う資産価値が確保できる」という説得で大方の区分所有者は建替えを考えるようになる。以来、管理組合は建替えを基本方針として検討を進め、被災2年後に、区分所有法62条の5分の4による「法廷建替え」を決議している。

 これに対して、住民11人は「建替えに比べると安価に補修が可能であり、法62条の法廷建替えの要件を満たしていない」として総会決議の無効を訴えたもの。

 本稿では、法62条の要件となる費用の過分性については述べない。原告側が主張する手続き上の問題を紹介しておきたい。それらはおおむね次ぎの三点に要約される。「管理組合は総会決議に当たって、建替え案を優先し、補修案に対して十分な検討をしていない」「経済的弱者に対する配慮に欠ける」「補修すれば十分に使える建物を建替えるのは地球環境保全上からも不当である」。

 これらは何れも法廷ではほとんど審議されなかったが、原告側が建替えに反対する基本の考えとなっている。

●新千里桜ケ丘住宅の場合
 新千里桜ケ丘住宅は千里ニュータウンでももっとも至便なところにあり、緑に囲まれたゆったりした階段室型中層団地である。敷地にゆとりがあるために、早くから等価交換方式による建替え計画が持ち上がっており、十分な補修工事がされずに現在に至っている。

 管理組合は、ひびわれ、鉄筋の露出が目立ち、設備の老朽化も進行し、さらには二方向避難形態になっていないこと、高齢化社会に向けてエレベーターがないことなどを理由に建物の老朽化を主張。加えて、補修するには建物の時価と比べて過分の費用がかかるという理由で、法62条による「法廷建替え」を決議した。

 ここでも、法廷での争点となる費用の過分性と建物の老朽化の問題には触れずに、建替えに反対する原告側の意見を見る。

 原告側を代表する意見は、「周辺の同時代に建った建物が、十分に使われているのだから、修理をすれば住まいとして何ら問題はない」という点につきる。

 加えて、30年育てた環境への愛着も建替え反対への動機になっている。ちなみに、以前に近隣に高層マンションが建つことに区分所有者の多くは反対したが、自分たちが建替えるとなると、すっかりそのことを忘れてしまったことへの疑問も小さくない。
 グランドハイツ高羽の場合と同様、これらの点に関して、法廷ではほとんど審議されていない。

●望まれる再生に向けて
 二つの事件に臨んで、私が強く思うことは、同じひとつ屋根に住む者同士がかくも長い争いに陥ったことの不幸である。おそらく、両事件ともに建替え推進派、反対派ともに、勝っても、負けても住民間の修復は容易ならないところへまできている。

 私たちはここから、マンションにおける合意形成の手続きの重要さを改めて学ばなければならない。私見を交えて言えば、今回の紛争の大元として、「はじめに建替えあり」として進めていった管理組合の審議の在り方が問われてよい。両事件ともに、法定建替えを検討するなら、管理組合は建替えと補修を等価に検討するべきであった。その上で、建替え計画が法62条の要件を満たしていることを客観的に提示すべきであった。

 桜ケ丘の反対派のひとりが言う「必ずしも、建替えに反対ではない。建替えるなら、環境を考え、資源への配慮をした計画を」という言葉を21世紀の再生時代に向けての大きなメッセージとしたい。


24 エレベーターの点検・交換
 エレベーターは高層マンションにとって、足も同然のもの。1基しかないマンションでは、月々の点検時の苦労は並大抵ではない。それでも文句を言わずに耐えているのは安全への期待である。今回は、エレベーターの点検の仕組みと、最近、実施例が目立ってきた交換について考える。

●メンテナンス料金の見直しが課題
 もともと、エレベーターは十分な安全率をみて製作されている。その上で、建築基準法は月々の点検と、年一度の点検報告を義務づけている。時たまカゴ内への閉じ込め事故があるものの、人身事故が生じていないのは厳しい安全規制のお陰としてよい。

 この定期点検の考え方は一定しており、フルメンテナンス契約とPOG契約がある。

 フルメンテナンス契約は消耗、または事故によって生じる部品類の交換を点検に含めて契約するもので、およそ20年を目途に設定する。20年を過ぎると、部品交換の頻度が増えてくるので内容が異なってくる。

 一方、POGはパーツ・オイル・グリスの略で、注油等を除くと点検作業だけで、部品交換が必要になると費用を別に支払う。

 点検費用はほぼ一定しており、大方のマンションはフルメンテナンス契約の場合、1基あたり月々7~8万円を支払っている。従来、この点検費用の内容をめぐっていろいろ議論がされてきた。ただし、あまり芳しい成果が挙がってこなかった。これはエレベーターメーカーが少数の大手会社に寡占されていることによるもので、メーカー系列の点検会社への期待感がそれを補填していた。

 ところが、最近は独立系の点検会社が現れ、従前の価格体系が崩れかけている。ちなみに、独立系の点検会社のフルメンテナンス費用は従前費用の6割に近い。メンテナンス会社をかえないまでも、点検料金の見直しは管理組合にとって今後の課題である。

●改善は美観、防犯、安全の各面から
 エレベーターはもう一つの共用玄関という一面があり、常に美観上の配慮が必要である。さらに、密室状態になることから、防犯上の対策も必要である。また、古いものでは非常着床装置が装備されていないものが多いので、安全の高進も必要である。

 これらの内、美観上の処置は、カゴ内の壁、ならびに扉・枠表面に硬質塩ビ壁装シートを貼る方法が一般的に行われている。ただし、これもメンテナンス会社に依頼すると倍近い費用になることがあるので注意を要する。写真は外壁修繕時に枠の周辺を赤御影石で化粧し、扉・枠、カゴ内を硬質塩ビ壁装シートで改装した例である。

赤御影石で化粧した入口廻り

 防犯面では、防犯カメラを設置するか、写真のシースルーの扉に交換するのがよい。特に、都心型のマンションでは防犯カメラが有効で軽犯罪から重要犯罪まで確実に発生率が減っている。築20年代のマンションで、非常着床装置を検討する場合には、交換に要する費用との対効果を十分に考慮する必要がある。

●交換費用に大幅な価格革命
 エレベーターの寿命は、概ね35年前後とされてきた。現に、30年を十分に越えて使用されているものは決して珍しくない。ただし、マンションでは思いのほか更新の時期が早く、25年前後で取り替えの例が目立ってきた。いたずらや、傘のしずく、それに都心型マンションに多い排尿による床の発錆などがエレベーターの寿命を縮めている。いたずらや排尿は防犯カメラの設置で確実に防止できるが、傘や台車の持ち込みによる傷はなかなか解消できない。

 また、一般に、マンション仕様のエレベーターは速度が遅く、着床時のドスンとした感触も気になる。経年してくると着床のずれが頻繁に起こる場合もある。これらのことが輻輳して、マンションではエレベーターの交換が早くなっているようである。

 交換には、従来、1基あたり千数百万を要するといわれてきた。ただし、これはメーカーの言い値で、最近、中堅メーカーが、1千万円前後の価格で実行していることから、大手メーカーの製品でも大幅な値引きが行われている。もっとも、新築時にはゼネコンの管理下に、厳しい価格調整が行われていることを考えると当然のことともいえる。

 交換にあたっては、インバーター制御方式にして、昇降、着床を安定させ、非常着床装置なども装備したい。

 なお、取り替え時の高齢者に対する配慮も忘れてはならない。横浜の南永田住宅では、工事に先立って、1基しかない棟の階段に、手すりを取り付けている。


23 防災設備の見直し
 火災はマンションを襲う災害の内でも、最も恐ろしいもののひとつ。そこで、建築基準法、ならびに消防法はマンションにさまざまな規制を加えている。その基本は予防対策。万一、出火しても被害を最小限にとどめようとするもの。

●新たな防災基準から古いマンションを見直す
 マンションの増加と共に、近年、マンション火災も多くなり、予防強化の観点から平成8年に防災基準の改正が行われている。

 それによると、以前は10階以下には義務付けられていなかった消火器が、全階に設置しなければならなくなったし、自動火災報知設備も原則として全階に必要である。古いタイプの自動火災報知機は、点検の際に室内に入らなければならないが、最近のマンション用のものは、住戸外から点検できる。ドアホンに遠隔点検機能が付いたもので、室内の親機にはガス漏れ警報機も接続できる。もちろん、非常の場合にはブザーが鳴って出火元を知らせる。

 防災基準の改正や、器具の改良は、不在住戸の火災発生率が高いことや、住戸内の点検が困難であることがきっかけになっている。マンションが古くなればなるほど、賃貸率や空き家が増える傾向にあるので、古いマンションほど改正の主旨にしたがった予防改善が必要ともいえる。取りあえず、消火器を各階に備え置くことから防災設備の見直しを図りたい。

 なお、火災報知関係の機器には、自治省の告示で機器の形式失効期間が定められている。ちなみに、昭和44年4月~55年10月までの熱感知器は、平成9年10月末で形式失効している。

 地下に飲食店などが入っている場合などを除いて、住戸専用型のマンションでは、感知器が形式失効しても機能を保っていれば交換の必要はない。ただし、形式失効期間を相当過ぎているようなら、前述の遠隔点検のできる新システムへの切り替えを検討するとよい。

 マンションによっては、自動火災報知器の他、消火活動用の非常コンセント、消火栓・連結送水管設備などがあるが、何れも、半年に一度の機能点検、1年に1度の総合点検が義務づけられている。自分のマンションの消防設備を一度見直してみると、いざという時思わぬ役に立つかもしれない。

火災は思わぬ時に思わぬ所から

●いざ、という時の避難経路を確認
 いったん出火すると、火が立ちあがるのは早い。マンション火災では、火より煙がもっと恐いといってもよい。そのために、避難への備えも重要である。こちらも建築基準法、消防法でいろいろの規制が加えられている。

 その基本は、一定の領域で炎や煙を遮断することと、二方向避難。前者の代表的なのが防火戸。共用廊下と屋内階段の境に付いている鋼製扉だけではなく、各住戸の玄関扉も防火戸で、住戸の延焼、類焼を防止し、避難をすみやかにする役割を担っている。

 階段室の防火戸は火災が発生し、温度が上がると自動的に扉が閉まる仕組みになっている。古いマンションでは温度ヒューズが切れているのをよく見掛けるので、注意を要する。また、丁番などの調子が悪く、閉まらなくなっていることもあるので、定期的な点検が必要である。

●バルコニーの物置に注意
 マンションは通常、二方向避難を原則としている。二方向避難は、万一、火災が起こった場合、火元とは逆方向に避難できることをいう。例えば、共用廊下型の高層マンションでは、一定の距離以内に非常用階段が設けられているし、玄関側への避難に危険がある場合は、バルコニー側に逃げられるようになっている。これは中層の階段室型の場合も同じで、バルコニーの隣戸との境の隔て板を破って、隣戸に避難できる。また、垂直避難ハッチを開けて、階下に逃げることもできる。

 ただし、隣戸との間に物置などを置いていると、いざという時に逃げられない。また、垂直避難ハッチの点検も忘れてはならない。最近のマンションではステンレス製が使われているが、古いものは鋼製で、錆び付いて蓋が開かなくなっているのも珍しくない。大規模修繕工事の際などに、ステンレス製に交換するのが好ましい。

 なお、古いマンションで二方向避難ができない場合は、新たに自動火災報知器を設けたり、消火器を増やすなどして、防災設備の充実を検討したい。管理組合で避難用の防煙マスクを各住戸に配布するのも一案である。防煙マスクは15分程度の持続力があるので、煙の中を括り抜けられる。


22 電気の容量アップ
 建物が20年を経過して、そろそろ30年代に入ろうとすると、電気幹線の老朽化や各住戸の受電容量アップの検討に迫られる。今回は受電容量アップを中心に考える。

●マンションによって違う引き込み方法
 最近は公道の地下共同溝に電線を配線して、電柱のない街づくりや団地づくりが進められているが、一般には、電気は電柱の架空配線から、それぞれのマンションに供給される。ただし、その供給方法は建物の規模、店舗などの在る無しによって異なる。

 例えば、20年以上経過した中層の団地型マンションではほとんどの場合、電柱に付けられている変圧器で100ボルトに減圧して建物に引き込まれる。一方、1棟で数十戸以上の高層マンションでは建物の一部に電気室があり、そこまでは6,600ボルトの高圧で引き込まれ、電気室に置かれた電気会社の変圧器で、100ボルトと200ボルトに減圧して共用部分と各住戸に供給している。さらに、1階に大型店舗や事務所などが入っている場合には、住戸用とは別の自家用受変電器によって供給されている。

●中層団地型の場合
 20年以上経過した中層の団地型マンションは大方が電柱から直接、妻壁に取り付けられた引込開閉器を経て、建物に取り入れる。これは、1棟当たりの住戸数が少なく、建物全体での総受電量が50KVA以下になっていることによる。50KVAというと、1棟で3階段30戸の場合、1戸当たり約40アンペアまで使用可能な受電量である。建物全体の総受電量を超えると、引込開閉器が各住戸のブレーカーと同じ役割をして、全住戸が停電になる。

妻壁への電気の引き込み

 二十数年前に初年度入居が始まった団地型マンションでは、20アンペア契約から始まっているものが多い。当時は、エアコンや電子レンジが普及していなかったので20アンペアで十分であったが、家電製品の普及にともなって、各住戸ごとに30アンペア、50アンペアに契約更新してきたのが実態である。電気会社は建物1棟当たりの総受電量を超えなければ申し出のあった住戸から順番に増量し、超えるところで「増量できません」と言ってきた。したがって、同じ棟の中で、新築時のまま20アンペアになっている住戸と、60アンペア契約をしている住戸が混在しているのが、高経年団地型マンションの実態である。

 増量が遅れた住戸の要望に応えるには、建物全体の総受電量をアップする必要がある。その場合、当然50KVAを超えるので、引込方法が従前とは違ってくる。6,600ボルトの高圧で当該建物まで送電して、建物専用の変圧器で100ボルト、200ボルトに減圧して各住戸に送ることになる。新築時ならこの変圧器は建物内の電気室に入れるが、古い建物には電気室がないので、パットマウントと呼ばれる屋外型のものを設置するか、建物の近くに電柱を建てて、そこに変圧器を設置する。1階段10戸棟、2階段20戸棟では従来どおりの直接引き込みが可能となる。

 いずれの場合も、電気の流れる量が変わるので、共用部分の幹線の引き替えを必要とする。

●高層マンションの場合
 一般の民間マンションをはじめとして、建物が高層になると、住戸数が30戸以上になることが多く、建物全体の総受電量が50KVAを超える。したがって、古いマンションでも電気室をもっているのが普通である。敷地条件によって、建物内にあるものと、別棟になっているものがあるが、この中に電気会社の変圧器が入っている。言い換えると、電気の受変電のために電気会社に電気室を貸している形をとっている。そこで、借室、借棟電気室というのである。

 借室、借棟形式の場合も、受電容量アップを図るには変圧器と幹線の交換を行う。変圧器は電気会社の管理下にあるから、本来、交換費用は電気会社の負担と考えられるが、必ずしもそうではない場合がある。電気会社と事前に十分な協議が必要である。

●複合用途マンションの場合
 最後に、複合用途マンションなどで、自家用受変電器を置く場合に触れておく。重要なことは、マンション内のどの箇所が、自家用受変電施設の系列に入っているかを確認することである。民間分譲の中小マンションでは、共用部分の一部を店舗などと一緒に、自家用受変電施設扱いにしている例が珍しくない。こんなマンションでは電気料金の計算が繁雑になっているが、受変電システムの見直しを検討する必要がある。また、受変電量のスリム化が可能な場合もある。

 以上、何れの場合にも、費用負担を含めて電気会社と十分な事前協議が必要である。


21 排水管の保全対策
 給水管と同様、排水管の場合も建物内外の配管状態、ならびに配管材料がマンションによって異なる。

●マンションによって違う排水系列
 共用排水竪管の考え方は、おおむね三つに分かれる。

 まず、各階の台所、洗面・浴室、便所それぞれの排水を一本にまとめ、合計3本の排水竪系列を持っているもの。これは中層の階段室型マンションに多い。通常、台所排水はバルコニーを貫通する竪管にまとめられる。洗面・浴室排水は洗面器の脇に、便所の汚水は便器の脇に露出配管される。

 次には、二系列の場合。こちらは、民間分譲の高層マンションに多く、台所・洗面・浴室の排水が一本、便所の汚水が一本、パイプスペース内に配管されている。

 最後に、一系列の場合は、台所・洗面・浴室・便所の排水を一本の竪管で処理する方式で、この方法をとっているマンションは少ない。

 排水が建物の外へ出てからの系列もマンションによって異なる。マンションが立地する地域全体の排水処理方法が影響しており、台所や浴室の雑排水と便所の汚水を一緒に浄化処理している地域では、建物内が二系列、または三系列になっていても建物から外にでると一本の排水管にまとめられる。

 その一方、台所や浴室の雑排水と汚水を分けて処理している地域では、屋外の埋設配管も二系列になる。

 浄化槽を設置しているマンションでは、当然、二系列になるが、浄化槽で汚水を浄化してからは台所や浴室の排水系列と一緒にして公共の排水路に流される。

 排水管でもう一つ確認しておかなければならないのは専有枝管の配管状態である。

 一般に公団などの公的分譲マンションは、浴室の排水を除くと、自分の階のコンクリートスラブ上に配管されている。ところが、民間分譲のマンションでは、枝管が階下の天井の中で竪管に接続されていることが多い。事故や排水管交換の場合には階下の天井を壊さなければならない。

 以上の配管系列を確認した上で、次には使用されている管材を確認する。

●配管材料のいろいろ
 古いマンションの屋内部分の排水管は、塩化ビニール管、亜鉛メッキ鋼管、鋳鉄管の三種類が一般的である。

 その内、共用竪管には、亜鉛メッキ鋼管が使われる。塩化ビニール管は火災が生じた場合、コンクリートスラブを貫通する部分から階上、階下に延焼する恐れがある。そこで、延焼を防止するために不燃性の鋼管が使われる。その延長として、住戸内の枝管も亜鉛メッキ鋼管で配管するのである。塩化ビニール管を使用する場合は、竪管から1mを鋼管で配管し、その先に使うことになる。最後の鋳鉄管は汚水管として使われる。

●排水管の事故例
 排水管で一番先に事故が起こるのは、亜鉛メッキ鋼管によって配管された台所排水の横引き管である。管内に油汚れなどが溜まりやすく、横引き管の下の部分から錆びて漏水にいたる。この事故は築15年ころからぼつぼつ発生し、20年を過ぎると過半の住戸で問題になってくる。

 次に多いのは、横引き管と共用竪管の接続部。こちらは、どちらかというと外面腐食による漏水が多い。特に浴室内や洗面室に共用竪管が露出配管されている場合は、管の外部に発生する結露が外面腐食の原因となる。写真は浴室内に露出配管された築27年の例で、ペンキの塗り替えなど、日常メンテナンスが行き届いている住戸ではほとんど異常はない。

外面腐食で穴があいた排水管サンプル

 塩化ビニール管と鋳鉄管の場合は、築20年代ではほとんど問題ない。特に、汚水管は洗浄水も多いので管を詰まらせなければ大丈夫である。

 屋外の埋設管は、コンクリート製のヒューム管か、対衝撃型の塩化ビニール管が使われているので、通常は20年代で配管の更新をしなければならない事態はない。ただ、桜や欅の多い団地型のマンションでは樹根が配管を傷めるころがある。一定の期間ごとに汚水枡の点検をすることが大切である。

屋外汚水桝も定期点検が必要

 いずれにしろ、排水管の改修は更新工事が基本となる。最近は排水管の更生工事も開発されているが、外面腐食への対応を考えると問題が多い。延命を図るためには定期清掃と、外面点検を含めた日常のメンテナンスが大切である。

(執筆 藤木良明〔工学博士・一級建築士〕)